長命茂宏税理士事務所
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2020/2/28

「9-6-3のダブルプレー!?」・・貸倒損失。

  「9-6-3のダブルプレー」
 
  税理士事務所で働き始めたばかりの若かりし頃、担当する法人クライアントの決算業務について、貸倒損失の計上を検討し、同僚に相談していた時、当時の所長が「9-6-3のダブルプレー」とボソッと耳打ちすることがありました。
 
  野球を知らない人のために、ことわっておきますと、野球の守備位置には守備番号が付されております。例えば、ファーストは3、セカンド4、サード5、ショート6、ライト9などです。守備の際、一瞬でツーアウトをとれるケースがあるのですが、その多くは3、4、5,6の連携による内野ゴロによるものです。なので、4-6-3、6-4-3、5-4-3の連携によるダブルプレーはよく見ますが、外野であるライトが絡む9-6-3のダブルプレーはまず無いです。
 
  実は、貸倒損失は大きく分けて3種類あります。その3つは法人税基本通達に記載されているのですが、その番号は、9-6-1、9-6-2、9-6-3です。なので、その当時の所長は、9-6-3を検討してみてはいかがとアドバイスを下さったのだと思います。ダブルプレーは全く関係ありません。多分言葉の響きが良くて使いたかったのかと・・。私は心の中で「そのダブルプレーは無理ですよ。」と言っていました。
 
  本題に入りますが、9-6-1は①法律上の貸倒れ、9-6-2は②事実上の貸倒れ、③9-6-3は③形式上の貸倒れを指します。
 
  ①法律上の貸倒れとは、更生計画認可決定等の事実により、文字通り法律上債権が貸し倒れたことにより、貸倒損失を計上するものです。書面でエビデンスがしっかりしているので、これは計上にあまり悩まないと思います。
 
  悩むのが、法的整理がされていないが、長期間回収できない債権です。では、これについて、②事実上の貸倒れか、③形式上の貸倒れのどちらで損失計上が妥当かという点ですが、②事実上の貸倒れについて、相手方の資産状況、支払能力等から全額回収不能であることが要件になるのですが、形式的な基準ではない分、判断が難しいです。また、回収できないことが明らかになった事業年度で計上するよう計上時期が限定されていますので、さらに難しくなっています。また、その金銭債権に担保物がある場合は、それを処分した後の状況で回収不能か否かを判断するので、3つの通達の中で、一番使い勝手がよろしくない印象です。
 
 では、③形式上の貸倒れについてですが、継続的な取引を行っていた債務者に対して有する売掛債権について、(イ)その債務者の資産状況、支払能力等の悪化に伴い、取引停止時、最後の弁済期、最後の弁済時のうち一番遅い日以後一年以上経過した場合(担保物ある場合除く。)や、(ロ)法人が同一地域の債務者に対して有する売掛債権の総額が、取り立てに要する旅費等に満たない場合において、督促しても払ってもらえないときは、売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理した時はこれを認める、とあります。
 
 ですので、留意点としては、売掛債権に限定されていますので、他の通達と違い、貸付金等は損失計上できません。また、継続取引相手に限定されているので、不動産取引のように単発の債務者も対象外です。なお、備忘価額として最低一円は貸借対照表に売掛債権を残しておく必要があります。そして、税務調査での否認リスクを少しでも低くすべく、(ロ)について、督促したことが証明できるよう、内容証明や債務者とのメールのやりとりなどでエビデンスを残しておくこと、(イ)について、可能な限り、関連会社の聞き取り、調査会社報告、難しいが債務者の財務諸表入手などで、資産状況、支払能力等の悪化を示すエビデンスを残しておくことをおすすめします。よって、②よりこの③形式上の貸倒れのほうが、形式基準の要素が多い分、まだ使い勝手がいいかなという印象です。
 
 覚えなくてもいい通達番号を自然と覚えさせてくれた当時の所長に感謝です。
 
 
 
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