長命茂宏税理士事務所
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2022/1/7

免税事業者にとって他人事ではないかもしれないインボイス制度

 令和5年10月1日から、消費税の仕入税額方式として適格請求書等保存方式(俗にいうインボイス制度)が導入されます。
 
 適格請求書等とは、請求書、領収書、レシートなどに、一定の事項を記載したものです。
 
 一定の事項のうちの一つに「登録番号」がございます。
 
 登録番号とは、法人の場合は、T+法人番号で、個人事業主等の場合は、T+13桁の番号(個人番号・マイナンバーではないようです。)で構成されます。
 
 この、登録番号などの一定の事項が記載された適格請求書等は、誰でも交付できるわけではなく、「適格請求書発行事業者」に限られます。
 
 適格請求書発行事業者になるためには、その登録申請が必要ですが、登録を受けることができるのは消費税課税事業者です。
 
 「なんだ、話がややこしそうだし、そもそも登録を受けられるのは消費税課税事業者に限られるなら、消費税免税事業者には縁のない話か」というと、そうでもありません。というか、むしろ免税事業者こそ真剣に考える必要があるかもしれません。
 
 わかりやすく、②エアコンメーカーと①エアコン小売店の取引例を図示します。前提として、売主であるエアコンメーカーは課税事業者ではなく免税事業者であると仮定します。一方、買主であるエアコン小売店は簡易課税制度ではなく、原則課税方式を適用しているケースで説明します。(ちなみに、エアコンメーカーも、現実には、材料の仕入れ等があるはずですが、説明をわかりやすくするため、下図において、その点割愛しております。)
 
 
  インボイス導入前の、現在の仕入税額控除の要件は、帳簿に、仕入先(上記例でいう②エアコンメーカー)の名称、取引年月日、取引内容、金額を記載し、帳簿・請求書類等を保存することで認められていますが、インボイス導入後は、上記要件に加え、適格請求書等、つまり、仕入先(上記例でいう②エアコンメーカー)の請求書・領収書等に、上述した「登録番号」など一定事項が記載された書類が無いと、購入事業者(上記例でいう①エアコン小売店)は仕入税額控除できなくなってしまうのです。(上図右下※に記したように、すぐに全額仕入税額控除できなくなるわけではなく、一定期間、一定割合控除の経過措置はございますが。)
 
 なので、今後①小売店は、②メーカーに対して、従来の請求書ではなく、適格請求書等を下さいと言うことが予想されます。
 
 ここで、もし②メーカーが免税事業者である場合、何も策を講じないと、今までどおりの請求書・領収書しか①小売店に渡すことができないため、それだと仕入税額控除ができない①小売店は、次第に②メーカーから離れ、適格請求書等を交付してくれる別のメーカーのもとに行ってしまうかもしれません。
 
 ②メーカーが講じることができる対策例として、
A.免税事業者をやめて、あえて課税事業者たる適格請求書発行事業者になることで、①小売店を引き留める。
B.課税事業者にはなりたくない。でも太客の①小売店は繋ぎとめたい。なので、従来の請求書・領収書で我慢してもらう代わりに、消費税分値引き対応する。
C.①小売店のことはあきらめる。引き留めない。
などが考えられます。
 
 ちなみに、Aの場合、②メーカーにとって、①小売店を引き留めることができる反面、今まで免税事業者として販売時の消費税分を自分の懐に入れることができていたのが、今後は今までのようには いかなくなります。というのも、消費税課税事業者として納税計算の対象になるので。
 
 なので、免税事業者は、ご自身の業種の特性に照らして、今後どうするか考える必要があります。例えば、免税事業者の八百屋さんであれば、消費者は主婦の方など一般消費者が大半であるなら、仕入税額控除とは無関係だから適格請求書等じゃなくてもいいのではないかという考え方もある一方で、もしも、消費者のうち、会社の福利厚生の一環でバーベキューをするから野菜を買いに来たので、適格請求書等を下さいというお客様もくるかもしれない・・。つまるところ、 B to B 事業なのか B to C 事業なのか、あるいは、その両方が混在している場合、割合はどうなのかなどによっても、インボイス制度に参加する しないの判断は違ってくると思われます。
 
 なお、上記で説明割愛した簡易課税制度について、その計算の仕組みは、売上消費税に、みなし仕入率を乗じることで、控除対象仕入税額(=簡便的に仕入消費税とみなした金額)を計算します。ですので、以下が判明していることは滅多にないことだと思いますが、たとえ B to B 事業、かつ、買い手が課税事業者であっても、もしも買い手の課税事業者が皆簡易課税を使っているということが判明しているなら、売り手、上記例でいうところの②メーカーは、免税事業者のままでいるというのも判断方法の一つかもしれません。なぜなら、買い手の簡易課税事業者は、適格請求書等をもらわなくても、みなし仕入率によって、控除対象仕入税額の計算ができるので。(とはいうものの、他社が簡易課税を使ってるかどうかについて、例えば、簡易課税制度の適用要件の一つである、基準期間※の課税売上高が5,000万円以下であることという点に着目して、規模・外観などから取引相手の課税売上高が例年5,000万円以下かもしれないということは勘で予想できたとしても、実際に簡易課税制度選択届出書を提出して簡易課税の適用を受けているかどうかまでは流石にわからないと思いますので、なお書き13行の判断プロセスは、あまり現実的ではないですが。)    
 ※基準期間・・個人事業者の場合は前々年、法人の場合は前々事業年度のことです。
 
 こうしてみると、もともと課税事業者であればあまり判断に困ることはないでしょうが、上述のように、年商の少ない免税事業者に、このような複雑な税務判断をさせるインボイス制度ってどうなんでしょう。また、コロナ禍で経済が衰退している現況を考えれば、ゆくゆくは導入するにしても、今は時期尚早ではという見解もちらほら聞きます。そもそも、より「正確」に計算しようとするインボイス制度と、「みなし」仕入率を使う簡易課税制度の共存は、制度趣旨的に、水と油ではと思ったりもします。
 
 令和5年10月1日からインボイス制度に参加するには、止むを得ない場合を除き、原則、令和5年3月31日までに、登録申請手続が必要です。その日はすぐにやってきます。本当にこのまま延期もなく予定通り施行されるのでしょうか。顧問税理士さんを付けていない事業者さんにもインボイス制度の概要が周知徹底されるように、そろそろニュースとかで大きく取り上げられないかなと思う今日この頃です。
 
 今回制度の趣旨・概要に焦点を当てて言及させていただきました。ですので、適格請求書等に必要な記載事項は、登録番号だけでなく他にも何点かございますが、そのご説明は割愛させていただきましたのと、登録手続きにあたって具体的に提出する書類についてもご説明を割愛させていただきました。その点ご了承いただければと思います。
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